ユーソニアン・オートマチック

たいていの人たちは、建物をたてるときには資金に制限があります。

その制限の中で夢を描いて、建築家とともに四苦八苦することになります。

フランクロイド・ライトという巨匠の建築家であってもそうです。

資金に限りある若夫婦が、当時ライトがすすめていた有機的建築の原則に則った家を建てるにはどうすればいいか、とよく質問を受け、たどりついたのが、「ユーソニアン・オートマチック」です。

オートマチックというと、一般的には自動的という意味ですが、ライトがこの言葉を使った時代背景から考えると、「自分でつくる」といった意味合いがあると考えられます。

建築費を下げる = 自分でつくる

に帰結したと言えます。

では、資金や手段が限られている場合に、どうやって自由への開放を感じる家を自分の手でつくるか、ということが問題です。

フランク・ロイド・ライトのその解答が、自然なるコンクリートブロック住宅「ユーソニアン・オートマチック」と名付けた住宅です。

このユーソニアン住宅により、建設費を押し上げる原因の人件費を不要にできるという考えです。

ライトのコンクリートブロック住宅の初期のバージョンは、1921年から1924年にかけて、ロサンゼルスに建てられ、さらにアリゾナ・ビルトモア・ホテルのコテージでも採用されています。

その最初の作品が、パサデナのミラード邸、ロサンゼルスのストーラー邸およびフリーマン邸、エニス邸です。

ブロック住宅の最初の試み ストーラー邸(1923)
テキスタイルタイル・コンクリート・ブロック(張りかこみ):エニス邸(1923)外観正面
エニス邸(1923)外観
エニス邸のコンクリートブロック

少し間をおいて、アリゾナ州フェニックス、エーデルマンのコテージ、ピーパーのコテージがあります。

 エーデルマン邸(1953)外観(南立面)
外観(塀ごしに北側を見る)南立面 (左に居間、右に客室)
中庭(左手に居間、ガラスのはめられたコンクリートブロックのスクリーンが、廊下に沿って右手の客用ウィングへとつづく
ベンジャミン・エーデルマン邸
アリゾナ州フェニックス
1953年のコスト 25,000ドル(現在:約2500万円)

低価格の家を建てるには、お金のかかる熟練作業をできるだけ排除することが必要です。をのため、ユーソニアン・オートマチック住宅では、躯体はプレキャスト・コンクリートのブロックをつなぎ合わせてつくられています。

ひとつのブロックはや 1×2 フィート(約30cm ×60cm)で、外周には溝が切られていて、この連結部に小径の鉄筋を水平・鉛直に入れて、積み上げていきます。ブロックの製造も積み上げ工事も、建築主が自分ででき、縦の鉄筋を上に突き出すように差し込み、溝にモルタルを流し込みながら、一段一段と積んでいく、といった手順です。

日本のコンクリートブロック住宅は、コンクリートブロックは規格に適合した既製品の限られたものものを用いて、施工会社に依頼依頼して作ってもらうことがほとんどなので、なかなか夢のような話になりますが、セルフビルドをめざす方や、価格低減の参考のために紹介したいと思います。

ユーソニアン・オートマチックの建設法

ユーソニアン・オートマチックは、形、パターン、適用部位についてあらゆる変調を受け入れる応用性の高い建築システムです。

建設に使うブロックは、現場で製造できます。木や金属でできた型枠に、混ぜたコンクリートを流し込んで製作します。型枠側が建物の表面になり(この面に模様をつけても良いです)反対側は壁の内側に隠れます。軽量化のため、裏側はふつうは肉抜きにされます。

ブロックの四周には半円断面の溝が(鉛直・水平)走り、鉄筋が入るようになっています。ブロックを積むには、ブロック同士のエッジをピッタリと合わせて、円筒形の空洞ができるようにします。そこに鉛筆ほどの太さの鉄筋をセットし、ポルトランドセメントのモルタルを詰めます。

壁は一重壁(ブロック壁を一層だけたてたもの)にも、二重にもできます。一重壁の場合は、肉抜きは室内側に向けますが、二重壁の場合は肉抜き面同士を対向させて二層にします。あいだの隙間は断熱のための空気層になります。

通常の壁の積み上げ方法は、次の通りです。

①差し筋と呼ばれる鉛直の鉄筋を、ブロック単位の間隔に合うように床スラブや基礎に打ち込んでおく。これがブロックの壁体を固定する役割を果たすので精度が重要です。

②差し筋の間にブロックをはめ込んでいく。ブロック連結部の円筒形の空洞に鉛直の鉄筋が入るようにする。

③セメント1:砂2の割合で混ぜたモルタルを連結部の鉛直の穴と水平の溝に流し込む。すべての継ぎ目が緊結され、剛に一体化される。

AIR SPACE:空気層
GROUT POURED HER E:ここにモルタルを流し込む
CORNER BLOCK:役物ブロック
COFFERING:肉抜き
TIR RODS:つなぎ鉄筋
REINFORCING RODS: 補強筋
FLOOR SLAB:床スラブ

④さらに積み上げるときに、鉄筋を水平の溝に寝かせる。

⑤設計が二重壁の場合は、亜鉛めっきを施した二重壁専用のU字型つなぎ筋(タイロッド)を表裏それぞれの連結部に差し込んで、ブロック壁同士を緊結する。

⑥モルタルを流し込んだ溝の上に、次の段のブロックを積む

⑦次の段を積み終わったら、鉛直のジョイントに再びモルタルを流し込む。先ほどの水平の連結筋にもモルタルが行きわたる。この作業を、くり返す。

DOUBLE OUTSIDE WALL :二重壁の外側の壁
SINGLE BLOCK:ブロック単体
VERTICAL SECTION:鉛直方向の断面
INSIDE FACE:内側の表面
OUTSIDE FACE:外側の表面
HORIZONTAL SECTION:水平方向の断面
AIR SPACE:空気層

ブロックのパターン、デザイン、サイズは様々に変更できます。うまく工夫すれば、ブロックにパターン状に穴を開け、ガラスをはめ込んでおくこともできます。この穴あきブロックを積み上げれば、コンクリート、鉄、ガラスでできた半透明の格子スクリーンにもなります。

隅の部分には特別な役物ブロックを使用します。二重壁の場合には内側用と外側用に二種類が必要です。一軒の家を建てるには、ふつう九種類のブロックが必要になりますが、ほとんどは同じ型枠を転用しながら製造できます。天井の場合も同じブロックを使って水平の天井・屋根スラブを打設します。鉄筋も同じものを使って、鉄筋コンクリートのスラブにして、その上にルーフィングを敷き込みます。

ユーソニアン・オートマチックでは、熟練作業はすべて不要になっています。給排水管、暖房設備、電気設備などは、すべてあらかじめ工場制作されているからです。すべての設備システムは工場生産のパッケージ製品として現場にやってきます。ブロック建設の最中にいくつかの単純な接続を行うだけで簡単に設置できます。

ライト曰く、
「資金に恵まれていなくとも、何がしかの知性と自らの労働を元手にして、我らが民主主義のもとに生きる自由人たるにふさわしい、有機的建築の原則に沿った自然の家が手に入れられるようになった。この家は、私たちの社会の中でひとつの要素としてはたらき、自由な社会たるべき「住宅地」をつくり上げる建築的手段となる。すべて完璧に標準化されながらも、民主主義的な多様性の理念(個人の主体性)を確立しているからこそできることだ。本当の建築が生まれようとしている。このシステムに従うことは、個性を捨てさることを意味しない。むしろそれによって想像力を発展し、各々の目的にかなった住まいを自由に建設できるのだ。実に多様な建物が融通無碍の柔軟性から生まれている。こうした建物が集まっても、決して優雅さや望むべき個性が失われることはない。」
といっています。

究極の建設費削減を行うながら、自由をもとり戻す。日本国内で、どれだけ可能かはわかりませんが、試してみたいものです。

※日本では、公共建築工事標準仕様書に基づいて施工する工事においては、コンクリートブロックの規格はJIS A 5406に適合することが求められるので、注意が必要です。