家の中の段差の解消

楽で安全度の高い生活をするためには、段差のない同一平面の住宅から始まります。1階から2階へと結ぶ階段はやむを得ませんが、それ以外の段差は設計段階から配慮することにより、ほとんど解消することができます。

年齢を重ねると、自分の意識どおりに脚が上がってはおらず、少しの段差や凹凸でもつまづきやすく、その際の転倒により骨折してしまい、動けないのでますます動けなくなり、寝たきりになってしまうケースが多いです。

空間的なおもしろさや変化をねらった、部屋の中や部屋と部屋との間の段差をつけた住宅は、おもしろくもありますが、若いあいだからそういった住宅に住んでいれば身体がそれに適用していきますが、年齢を経てからの改修や新築の場合は、できるだけ凹凸のない、つまづきにくい計画をするほうがよいです。

一般に日本の住宅に見られる段差は、さまざまな理由により、以下の箇所にみられます。

①玄関・勝手口
上り框を低くしたり、式台を設けたり、手すりを設ける。

②浴室
出入口に排水溝をとり、脱衣室へ水が流れないようにして、浴室床面と脱衣室床面を同じレベルにする。

③便所
便所内の床仕上げはできるだけ、廊下側の床仕上げと同じにして段差を解消する。

④和室
畳厚さとフローリング厚さとの差のは下地で解消して、同じレベルとするか、腰を掛けて和室に入れるように300〜400mm程度まで和室レベルを上げる。和室に座ったときの目線レベルとフローリング部分のテーブル椅子に座ったときの目線レベルを合わせる。

 
藤井厚二氏による実験住宅
聴竹居(和室と居間のつながり)

⑤その他、建具の敷居・靴ずりを介して床仕上げが異なる場合は下地レベルにより調整を行う。

 

出入口の工夫

-- 建具の方式 --

足腰が弱ってくるときは急激に進んでくるものです。将来のそうした不安にそなえて、部屋の出入口は車椅子が使えるように配慮しておきたいものです。

出入り口への配慮のポイントとしては、段差、入口幅、開きぐあい、建具の方式があげられます。ここでは、建具の方式を中心に紹介します。

●引き戸
杖を使って歩行する人や車椅子使用の人にとっては、引き戸が最も使いやすい建具だといえます。プライバシーや気密性には欠けますが、操作がしやすく、身体をよける空間が不要なので、狭い空間に適しています。引き戸にもいろいろなタイプがあります。

①3枚引き戸
二枚引き戸では、車椅子に必要な入口幅が取りにくい場合に、三枚に分割して必要幅を確保します。

②アコーディオンドア
現行二枚引き戸の出入口において、車椅子の有効幅を確保したい場合に、市販のアコーディオンドアなどを利用してリフォームします。
開き戸の出入口に対するリフォームの場合は、たたみ代(しろ)でさらに有効幅が狭くなるので利用できません。

③一枚引き戸
ドア幅が広いので1回の操作ですみ、空間もすっきりします。この場合は、吊り戸式のものが、操作も軽く、足元に戸車のレールがないのでよいでしょう。

 

●開き戸
開き戸は、車椅子の場合には扱いにくいものです。開き加減によっては身体がじゃまになり、出入りがしにくくなります。また、車椅子で操作するためには、ドアの横に操作するための空間が必要になります。また、風のつよい日などは、中途半端な開き方でドアが閉まって、手をはさまれたりするケースがあるので、ドアチェックをつける必要があります。

 

●とっ手
車椅子の高さで力を入れて操作できる位置は、健常者の高さとは異なります。おおよそ、60〜70センチで計画します。つかみやすいタイプで、手ざわりのよい木製などのあたたかみのある材質がよいと思います。

廊下、通路の工夫

-- 車椅子の使用 --

一般住宅の廊下通路の幅は狭くて、車椅子が使用できないというのが実状です。

家づくりのモジュール(基準寸法)にもよりますが、廊下などは一般的には、いわゆる半間モジュールでつくられますので、関東間では有効幅が 76 センチぐらいになってしまいます。車椅子を使用する場合には、有効幅で 80センチ以上は必要となりますので、関東間モジュールの家では狭くて使用できなくなります。

 

その点、関西間モジュールだと、有効幅が 84センチぐらいになり、車椅子も十分使える広さがとれます。高齢者型住宅では、関西間モジュールをおすすめします。

また、車椅子で直角に曲がるときは 90センチ以上、回転をするには 140センチ以上の幅が必要となり、家の中を車椅子で自由に動きまわるためには、下図のような広さを確保しておく必要があります。しかし、一般の家庭では、それほど広くとることができないので、曲がり角を隅切りして、幅員は80 センチ以上にするなどの工夫が必要です。

 

また、壁面が車椅子でキズがつきにくように、キックプレートにもなる長めの幅木をつけておきます。

また、手すりは両側につけるのが望ましいです。

 

安全な階段にする工夫(2)

-- 勾配、仕上げ材 --

一般的な住宅においては、階段は上下の階をつなぐための機能として最小のスペースしか与えられていない場合が多く、その広さも幅半間 × 長さ1間半、勾配も45度に近いという非常にきびしい条件で設けられている場合が多いようです。

 

しかし、高齢者も利用して安全であるためには、勾配はできるだけゆるやかにして、段の高さ(「蹴上げ」といいます。:R)は 150mm程度、踏面 250mm程度(:T)、蹴込み 20mm程度とします。

住宅性能評価によると、
・勾配 6/7以下(ホームエレベータがある場合)
・勾配22/21以下、踏面195mm以上
(ホームエレベータがない場合)
・550mm ≦ 2R+T ≦ 650mm
・蹴込寸法 30mm以下
・蹴込板設置
となっています。

 

また、蹴込板は必ず付け、段の先端(段鼻)は蹴込板より出さないようにします。そしてノンスリップ(すべり止め)を付ける場合は、ノンスリップが踏面及び蹴込板面と同一面となるようにします。

 

次に材質ですが、これはすべりにくく、つまずきにくい材料を条件とします。たいていは廊下やホールから上がり下がりするので、その延長として材質は木質系のフローリングや寄木ブロックがよく使われますが、必ずすべりにくい仕上げとします。

簡易なものでは、デザイン性には欠けますが段の先端に両面テープで接着できるノンスリップも出ているので、すぺり止めには役立ちます。

また、最近よく使用されるものにコルクタイルがあります。コルク樫の樹皮組織をとって加工した品で、保湿性や耐水性にも富み、床暖房にも適していて、老人室やリビングルームまで広く使われています。ほかに毛足の短いカーペットを踏面、蹴上げと巻き込んで敷いていく方法も多く使われますが、これもすべりにくい材料として利用されています。

安全な階段にする工夫 (1)

-- 形式・手すり --

足腰が弱ってくると、階段を使わなくてもよい平屋での生活が理想ですが、敷地や家の広さ、親子二代で住む二世帯住居などの場合は、2階建てはもとより、最近は3階建住宅にしなければならないケースも多くあります。

転倒事故で最も多いのが階段での事故です。

建築のちょっとした配慮によって防止できるものが多いので、配慮のない住宅を見ると残念に思うことがあります。

まず、形式は、直接階下に転落しないように直線階段(鉄砲階段といわれたりします)はさけ、途中に踊り場をつくります。踊り場は転落時のクッションの役割になるほか、昇り降りのとき、小休止できるスペースにもなります。

手すりは両側に連続して取り付けます。階段幅などの関係から片側だけとなる場合は、降りる時のきき腕側に取り付けるのが望ましいです。高さは床から 80~85センチの位置に取り付けます。可能であれば、手すりの始まりと終わりの部分は 30センチ程度、水平にするのが望ましいです。

 

手すりの材料は木製が一般的ですが、ほかにステンレス芯の表面に樹脂を巻いたものなども市販されています。いずれも握りやすくすべらないことが条件です。形は丸型で径 5センチ程度が使いやすく、握りしめたときの手の甲がぶつからないように、手すりと壁とのすきまも5~6 センチ程度開けておきます。

なお、手すりには荷重がかかるので、壁に設置する場合はその下地の補強、床に固定する場合はその固定部分の収まりの検討も必要です。

玄関の開き戸を引き戸へ(増改築への提案)

玄関ドアは通常の室内ドアとは違って、内と外の境界になるので、耐火面、防水面、防犯面などから非常に重要な建具です。その性能を満足するのに、外開きの金属製のものが普及していますが、最近では、引戸型の玄関ドアも普及してきました。

日本古来の引き戸は、開けたまま出入りできるので、移動しながら開閉動作を行なわなければならない開き戸と違って、利便性が良くなっています。

 

たとえば、風で急に閉まったり、ドアそのものが重くて、お年よりには開けにくいことなどが開き戸の欠点です。吊り戸にする、ドア自体を軽くする、取っ手を握りバーのように長くとり、車いすの人も握りやすいようにしましょう。

それと、ポーチから玄関への段差が、案外中途半端なところにあるので、つまずきやすいものです。段差はなくしたほうがよいでしょう。

 

また、雨の日など、傘をたたみながら玄関のドアを開けるのは大変です。ポーチには屋根か庇を大きくとり、車いすの出入りのためにも。1.5m四方以上の広さは欲しいものです。

  

玄関の土間

日本人は、家に入るときは、玄関で履物を脱ぐ生活スタイルなので、通常は必ず玄関土間をつくります。

土間で下足を脱いで上がるので、土間と上り框(がまち)に段差ができます。この段差が、足腰が弱まってくると上るのに苦痛をともなうことになります。得に靴を脱ぎながら上がるという動作は、若い人でもよろけたり危ないときがあります。

上がり框の前に式台を敷き、履物を脱いで式台から上がるようにするのもよいでしょう。
式台とは、もともとは武家屋敷にて、来客者が地面に降りることなく、かごに乗れるように設けられた板の間です。
住宅金融支援機構の木造住宅の段差解消の仕様にもなっています。

 

また、車いすが使用できるように、スロープと上り框の両方をつくるのもよい方法です。

上り框が低いと、座って下足を脱いだりするのはかえってやりにくいものです。玄関にベンチを設置しておけば、いったん腰をかけてから履物を脱いで上がれるので安全です。

なお、玄関灯のスイッチは土間に立って手の届く位置につけるようにします。

玄関まわりに欲しい設備

夜、外出先から帰宅したとき、敷地内が真暗では危険です。
門灯や玄関灯には、あたりが暗くなるとセンサーが働いて灯りがともる「デイライト」を採用しておきたいものです。デイライトにしておくと、朝夕、わざわざ家の外に出て消灯したり点灯したりする手間がはぶけ、電気のむだ使いも防止でき、省エネギーに貢献することにもなります。

敷地に高低差があるアプローチでは、スロープや階段が多くなるので、足元灯を取り付けてより安全にしましょう。足元灯は壁面の埋め込みタイプにして、通りがかりの邪魔にならないようにします。

カーポートにも、立ち上げりの腰壁、階段部分に足元灯を取り付けて、夜間の暗がりにそなえたいものです。屋根のついたカーポートでは、鉄柱や屋根面に蛍光灯をつけるのも方策です。

カーポートの近くに散水栓を取り付ける場合は、地面に埋め込むタイプよりも一般に「コン柱」と呼ばれている立ち上がり水栓の方が使いやすいでしょう。埋め込みタイプでは地面にかがんで作業をしなければならないので、足腰が不自由になると使いづらいものです。

庭側にも足洗い場つきの立ち上がり水栓を設置しておくと、水やりが楽です。外壁にも2カ所ぐらい屋外用防水タイプのコンセントをつけて、足もとを照らせる照明器具が使えるようにしておくとよいでしょう。

玄関アプローチ対策

玄関アプローチ(導入路)は、前面道路からやや距離があるほうが望ましいですが、敷地の広さの関係もあるので、敷地に余裕がある場合と、そうでない場合のケースについて考察したいと思います。

●敷地に余裕がある場合

敷地が平坦なとき
門扉から玄関まで飛石が続いていて、地面に緑の苔が生えてるというのは、風情があってよいものですが、足腰が弱くなってくると、飛石につまずきやすくなります。飛石は地面すれすれに埋め込んで、つまづかないようにしょう。その目安は、5mm以下です。

敷地に高低差があるとき
玄関に至るまでに何段かの階段をつくることになりますが、階段の高さ(蹴上げー「けあげ」といいます)はできるだけ低くとりたいものです。蹴上の高さを15センチぐらいにして、水平面(踏面ー「ふみづら」といいます)を広いめにとると。上りやすく安全なアプローチになります。

また、階段をつくらずにスロープにする手法もあります。少し迂回スペースを取り込み、傾斜のゆるやかな安全なスロープとすると植栽等で楽しいアプローチにできます。スロープの傾斜は1/20(1mで 5㎝上がり)〜1/12(1mで 8.3㎝上がり)ぐらいまでが望ましいです。

●敷地に余裕がない場合
道路からの距離が短いうえ、高低差の大きい敷地では、階段も急傾斜になってしいます。そこで階段の長さをできるだけ長くする工夫をするのと同時に、階段に手すりをつけることが必要になります。

手すりは、耐候性がよいもので、かつ手の感触がよいものを選びます。片方のみにつける場合は、下りる時にきき腕側になる方へ付けるのが望ましいです。上がるよりも下りるときに危険がともなう場合が多いからです。