安全な階段にする工夫(2)

-- 勾配、仕上げ材 --

一般的な住宅においては、階段は上下の階をつなぐための機能として最小のスペースしか与えられていない場合が多く、その広さも幅半間 × 長さ1間半、勾配も45度に近いという非常にきびしい条件で設けられている場合が多いようです。

 

しかし、高齢者も利用して安全であるためには、勾配はできるだけゆるやかにして、段の高さ(「蹴上げ」といいます。:R)は 150mm程度、踏面 250mm程度(:T)、蹴込み 20mm程度とします。

住宅性能評価によると、
・勾配 6/7以下(ホームエレベータがある場合)
・勾配22/21以下、踏面195mm以上
(ホームエレベータがない場合)
・550mm ≦ 2R+T ≦ 650mm
・蹴込寸法 30mm以下
・蹴込板設置
となっています。

 

また、蹴込板は必ず付け、段の先端(段鼻)は蹴込板より出さないようにします。そしてノンスリップ(すべり止め)を付ける場合は、ノンスリップが踏面及び蹴込板面と同一面となるようにします。

 

次に材質ですが、これはすべりにくく、つまずきにくい材料を条件とします。たいていは廊下やホールから上がり下がりするので、その延長として材質は木質系のフローリングや寄木ブロックがよく使われますが、必ずすべりにくい仕上げとします。

簡易なものでは、デザイン性には欠けますが段の先端に両面テープで接着できるノンスリップも出ているので、すぺり止めには役立ちます。

また、最近よく使用されるものにコルクタイルがあります。コルク樫の樹皮組織をとって加工した品で、保湿性や耐水性にも富み、床暖房にも適していて、老人室やリビングルームまで広く使われています。ほかに毛足の短いカーペットを踏面、蹴上げと巻き込んで敷いていく方法も多く使われますが、これもすべりにくい材料として利用されています。

安全な階段にする工夫 (1)

-- 形式・手すり --

足腰が弱ってくると、階段を使わなくてもよい平屋での生活が理想ですが、敷地や家の広さ、親子二代で住む二世帯住居などの場合は、2階建てはもとより、最近は3階建住宅にしなければならないケースも多くあります。

転倒事故で最も多いのが階段での事故です。

建築のちょっとした配慮によって防止できるものが多いので、配慮のない住宅を見ると残念に思うことがあります。

まず、形式は、直接階下に転落しないように直線階段(鉄砲階段といわれたりします)はさけ、途中に踊り場をつくります。踊り場は転落時のクッションの役割になるほか、昇り降りのとき、小休止できるスペースにもなります。

手すりは両側に連続して取り付けます。階段幅などの関係から片側だけとなる場合は、降りる時のきき腕側に取り付けるのが望ましいです。高さは床から 80~85センチの位置に取り付けます。可能であれば、手すりの始まりと終わりの部分は 30センチ程度、水平にするのが望ましいです。

 

手すりの材料は木製が一般的ですが、ほかにステンレス芯の表面に樹脂を巻いたものなども市販されています。いずれも握りやすくすべらないことが条件です。形は丸型で径 5センチ程度が使いやすく、握りしめたときの手の甲がぶつからないように、手すりと壁とのすきまも5~6 センチ程度開けておきます。

なお、手すりには荷重がかかるので、壁に設置する場合はその下地の補強、床に固定する場合はその固定部分の収まりの検討も必要です。

玄関の開き戸を引き戸へ(増改築への提案)

玄関ドアは通常の室内ドアとは違って、内と外の境界になるので、耐火面、防水面、防犯面などから非常に重要な建具です。その性能を満足するのに、外開きの金属製のものが普及していますが、最近では、引戸型の玄関ドアも普及してきました。

日本古来の引き戸は、開けたまま出入りできるので、移動しながら開閉動作を行なわなければならない開き戸と違って、利便性が良くなっています。

 

たとえば、風で急に閉まったり、ドアそのものが重くて、お年よりには開けにくいことなどが開き戸の欠点です。吊り戸にする、ドア自体を軽くする、取っ手を握りバーのように長くとり、車いすの人も握りやすいようにしましょう。

それと、ポーチから玄関への段差が、案外中途半端なところにあるので、つまずきやすいものです。段差はなくしたほうがよいでしょう。

 

また、雨の日など、傘をたたみながら玄関のドアを開けるのは大変です。ポーチには屋根か庇を大きくとり、車いすの出入りのためにも。1.5m四方以上の広さは欲しいものです。

  

玄関の土間

日本人は、家に入るときは、玄関で履物を脱ぐ生活スタイルなので、通常は必ず玄関土間をつくります。

土間で下足を脱いで上がるので、土間と上り框(がまち)に段差ができます。この段差が、足腰が弱まってくると上るのに苦痛をともなうことになります。得に靴を脱ぎながら上がるという動作は、若い人でもよろけたり危ないときがあります。

上がり框の前に式台を敷き、履物を脱いで式台から上がるようにするのもよいでしょう。
式台とは、もともとは武家屋敷にて、来客者が地面に降りることなく、かごに乗れるように設けられた板の間です。
住宅金融支援機構の木造住宅の段差解消の仕様にもなっています。

 

また、車いすが使用できるように、スロープと上り框の両方をつくるのもよい方法です。

上り框が低いと、座って下足を脱いだりするのはかえってやりにくいものです。玄関にベンチを設置しておけば、いったん腰をかけてから履物を脱いで上がれるので安全です。

なお、玄関灯のスイッチは土間に立って手の届く位置につけるようにします。

玄関まわりに欲しい設備

夜、外出先から帰宅したとき、敷地内が真暗では危険です。
門灯や玄関灯には、あたりが暗くなるとセンサーが働いて灯りがともる「デイライト」を採用しておきたいものです。デイライトにしておくと、朝夕、わざわざ家の外に出て消灯したり点灯したりする手間がはぶけ、電気のむだ使いも防止でき、省エネギーに貢献することにもなります。

敷地に高低差があるアプローチでは、スロープや階段が多くなるので、足元灯を取り付けてより安全にしましょう。足元灯は壁面の埋め込みタイプにして、通りがかりの邪魔にならないようにします。

カーポートにも、立ち上げりの腰壁、階段部分に足元灯を取り付けて、夜間の暗がりにそなえたいものです。屋根のついたカーポートでは、鉄柱や屋根面に蛍光灯をつけるのも方策です。

カーポートの近くに散水栓を取り付ける場合は、地面に埋め込むタイプよりも一般に「コン柱」と呼ばれている立ち上がり水栓の方が使いやすいでしょう。埋め込みタイプでは地面にかがんで作業をしなければならないので、足腰が不自由になると使いづらいものです。

庭側にも足洗い場つきの立ち上がり水栓を設置しておくと、水やりが楽です。外壁にも2カ所ぐらい屋外用防水タイプのコンセントをつけて、足もとを照らせる照明器具が使えるようにしておくとよいでしょう。

玄関アプローチ対策

玄関アプローチ(導入路)は、前面道路からやや距離があるほうが望ましいですが、敷地の広さの関係もあるので、敷地に余裕がある場合と、そうでない場合のケースについて考察したいと思います。

●敷地に余裕がある場合

敷地が平坦なとき
門扉から玄関まで飛石が続いていて、地面に緑の苔が生えてるというのは、風情があってよいものですが、足腰が弱くなってくると、飛石につまずきやすくなります。飛石は地面すれすれに埋め込んで、つまづかないようにしょう。その目安は、5mm以下です。

敷地に高低差があるとき
玄関に至るまでに何段かの階段をつくることになりますが、階段の高さ(蹴上げー「けあげ」といいます)はできるだけ低くとりたいものです。蹴上の高さを15センチぐらいにして、水平面(踏面ー「ふみづら」といいます)を広いめにとると。上りやすく安全なアプローチになります。

また、階段をつくらずにスロープにする手法もあります。少し迂回スペースを取り込み、傾斜のゆるやかな安全なスロープとすると植栽等で楽しいアプローチにできます。スロープの傾斜は1/20(1mで 5㎝上がり)〜1/12(1mで 8.3㎝上がり)ぐらいまでが望ましいです。

●敷地に余裕がない場合
道路からの距離が短いうえ、高低差の大きい敷地では、階段も急傾斜になってしいます。そこで階段の長さをできるだけ長くする工夫をするのと同時に、階段に手すりをつけることが必要になります。

手すりは、耐候性がよいもので、かつ手の感触がよいものを選びます。片方のみにつける場合は、下りる時にきき腕側になる方へ付けるのが望ましいです。上がるよりも下りるときに危険がともなう場合が多いからです。